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冬の厳しい寒さに手がかじかみ、私は白い息を吹きかける。 新しい年、別れの年だった。 神社の境内で私が開いた手帳には、そっと挟んだ写真達。 気付いたら、こなたばかり集めていた。 私って馬鹿だな。 本当にそう思う。 友達に混じってはしゃぐこなたの姿── ──私だけのものならいいのに そんな風に思うなんて、本当に、私は馬鹿だ。 「お姉ちゃん?」 不意にかけられた声に、飛び上がりそうになる。 「おぅわっ?! つかさ、いつからここに?!」 「ついさっきだよー」 「いきなり声かけられたら、びっくりするじゃない!」 「へへ~、ごめん」 つかさは無邪気に笑う。悩みがなさそうでいいな、なんて思うのは、酷いかな? 今日は、初?詣の日だった。 実際には私達は巫女として初詣の日は働いていたので、三が日は過ぎている。 それでも、一緒に初詣がしたい、とこなたが私達に言ったのだ。 それだけで変に期待してしまう私は、やはりどうしようもなく愚かなのだった。 「こなちゃん達、おそいねー」 「まーたどうせ、ゲームで寝坊でしょ」 「でもお姉ちゃんさ~、どうしてこなちゃんの写真、そんなに集めてるの?」 「ぶほぅっ!?」 み、見られていた!? これはもう、こ、殺すしか……。 「お姉ちゃん!? 顔が怖いよ!?」 「……べ、別に集めてないわ。たまたま、あいつと一緒が多いから、そうなってるだけよ」 つかさにも、誰にも、自分の気持ちを知られる訳にはいかない。 私だけの秘密。 「ふ~ん、でもお姉ちゃん、ほんとこなちゃんのこと好きだよね~」 これは、いよいよ殺すしか……。 「目!? 目が怖い!? だってさっきもお姉ちゃん、こなちゃんの写真眺めてたから……」 「そ、そんなことないわよ!」 「お姉ちゃん、よくこなちゃんの話をするし……」 「そんなことない! この話、もうおしまい!」 無理に話を打ち切る。顔が熱い。 しかもそこへ、話題の主がやってきた。 「おーい、かがみん、つかさ~~」 こなたがこっちに向かって走ってきて、その背後にはみゆきの姿があった。 「お待たせ~」 「いや、予想よりは早いぞ。みゆきと一緒だし」 みゆきさんは、うふふ、と笑って私を見る。 「泉さん、かがみさんに早く会いたいと走ってしまわれて、少し汗をかいてしまいました」 「ちょ?! みゆきさん!?」 「なんだか羨ましいです。お二人は仲が良くて」 「も、もう、何してるのよこなた、恥ずかしいじゃない!」 本当は、嬉しい。 「みゆきさん、バラさないでよ~」 「うふふ、すいません。なんとなく漸く発言できたというか、今まで全く台詞が無かったというか、 私と二人きりよりかがみさんに会いたいとか酷いんじゃ? なんて全く思いませんが、バラしてしまいました。うふふ」 出番の無い人間に悲しみは尽きない……! 「「マジすいませんでした……!」」 出番ありまくりの私達は謝るしかなかった。 「いいんです、それより早くお参りしましょう。私、出番が増えますように、って神様にお願いするんです。うふふ」 切実過ぎる……! 私達四人は並んで神社に参拝し、賽銭を投げてお祈りする。 こなたは、何を願うのかな? そして、私は……。 「かがみんは、何をお願いするのカナ~~?」 「ちょ、ひっつくな! あんたこそ、何をお願いするのよ?」 「へへへ」 こなたは、にこっ、と笑った。 「これからも、みんなと一緒にいられますように、だよ!」 そういうこなたは真っ直ぐで、私は自分が嫌になる。 「受験とか祈っておかなくていいのかー?」 「うお?! 新年早々思い出したくないことをかがみが言ってくるよー!」 だって、私の願いは── ──こなたと一緒にいれますように、だから。 新しい年、別れの年が始まる。 新学期が始まる。 私達の高校三年間最後の季節。 私とこなたはまだ、ただの友達だった。 昼間に会えばふざけあい、軽口を叩き合う『親友』 それでいいんだ、って自分に言い聞かせようとしても、動揺する心は消えなくて。 こなた……。 目を瞑ると、こなたの姿が浮かぶ。 いつの間にか、ずけずけと私の心に踏み込んで、すっかり居座ってしまったあいつ。 気付けばこんなにも、好きになってた。 こなた…… どうしても声を聞きたくなると、受話器片手に理由考えて、無理矢理に電話してしまう。 「あ、こなたいますか?」 こなたの家に電話をかけると、ゆたかちゃんがこなたに電話を取り次いでくれる。 「お、どうしたんだい、かがみんや、最近よくかけてくるねー、私の声が恋しいかね?」 「んな訳あるか! 馬鹿!」 「いやいや、かがみんは意外と寂しがりやだからねえ、卒業も近いじゃん?」 「べ、別に、関係ないわよ」 「かがみんは可愛いねー」 「明日会ったら殴る」 私達はいつものように下らない話をする。 からかってくるこなたが辛くて、素直な気持ちをぶつけたくなって、でも、それは出来ない。 こなたはたぶん、私のことを友達としてしか、見ていないから……。 ねえ、こなた。 「かがみ?」 不意に訪れる沈黙。 私、こんなにこなたが好きなんだよ? 途切れる会話の中でこの気持ちに気付いてよ。 お願い。 私の胸が痛みで切り裂かれる前に。 「何でもない」 と私は笑った。 私とこなたは、まだ、親友の形から出る事が出来ない。 伝えたい言葉 たったひとつ 私はあの夜を無かった事に出来ない。 もう、自分の気持ちに気付いてしまったから。 こなたは、女の子同士とか、気持ち悪いのかな。 そういうケはないって言ってたこともある。 望みは絶望的で、私だけがこなたを好きで、どうしようもなくなっていく。 時間が、止まらない。 別々の進路を行く私達の時間はもうすぐ終わろうとしている。 だから私はこの気持ちを忘れなければいけないのだろう。 駆け足で過ぎていく時間の中で、こなたの姿が眩しく目に焼きつく。 どうしていいのか分からない。 私は時間においていかれないように走り出そうとする。 でもこなたへの想いが大きすぎて、私は、走り出す事が出来ない。 このままじゃ、卒業なんて無理だよ。 言わなきゃ後悔する? 言っても後悔する? 答えは、見えないままだ。 それでも、卒業の時は来る。 いつもの朝、制服に身を包んだ私は、結局、自分の想いを心の奥深くに沈める事にした。 女の子に告白されたって、きっと、こなたは困るもの。 だから、我慢するしかない。 「お姉ちゃーん、起きてるー?」 「いま行くー!」 私は今日、陵桜学園を卒業する。 時の流れの速さに逆らう事は誰にも出来ない。 いつもの通学路も、もう通る事のない道だと気付くと違って見える。 私の高校三年間は、不思議なくらい、こなたが傍に居た。 戻れない道、戻らない道。 「今日で卒業だね、お姉ちゃん」 「そうね……」 「楽しかったなー、高校生活」 色んな事があった。 でも、でもつかさの言う通りだった。 「うん、本当に楽しかった」 こなたがいて、私がいて、つかさがいて、みゆきがいた。 この三年間が本当に楽しい宝物だった事は、絶対絶対揺るがない。 きっと、永遠に忘れない。 夢みたいな時間。 「行こ、お姉ちゃん」 「うん……」 この道の先に、こなたが待っている。 私の高校生活を誰かに託すとしたら、それは、泉こなたしか居ない。 泉こなたに始まり、泉こなたに終わる、か。 何だか笑っちゃう。 私は、強く一歩を踏み出した。 卒業式は恙無く終了した。 長い長いその儀式の間、こなたはウトウトして先生に怒られたり、私達はただ黙々と今までの三年間をかみ締めてそこに居た。 貰った卒業証書は驚くほど軽いただの筒で、こなたはそれを引き抜いた時になる、ぽん、という軽い音で遊んでいた。 「私達の高校三年間、案外軽いね」 「そういうもんかもね」 紙一枚だけ入った、ただの筒。 たぶん、本当の卒業の証は、自分の内にしかないのだろう。 「終わっちゃった……か」 もう明日から、この校舎に来る必要は無い。 自分の教室で、桜庭先生の最後のHRを聞いて、それでお仕舞い。 でも私は何故か、立ち去りがたくて、暫くぼうっとしていた。 多分、私には、遣り残した事があるから。 でもそれは、永遠に遣り残すこと。 私の想像の中で、二人の女の子は想いを伝え合い、誰よりも愛し合い二人で居る。 現実では、ただの友達。 「こっちのクラスより、こなたのクラスに居た時間の方が長かったりしてね」 私は席を立ち、こなたのクラスに向かった。 多分もう、この時間なら誰もいない。 私だけが、ここで遣り残した事があったから。 そう思った。 教室の扉を開ける。 春の風の匂いがした。 開けられた窓から入る新緑の風。 長い長い髪がなびいた。 窓枠に腰かける少女がこちらを振り返り、照れたような笑みを浮かべる。 泉こなたが、まだ教室に残ってそこに居て、私を見ていた。 まるで、私とこなたに与えられた、最後の時間みたいに。 「あれ? かがみ、帰ってなかったんだ」 「あんたこそ……」 教室には、私達二人しか居なかった。 中に入って、思わず、鍵をかける。 この時間に、私達以外の誰も入って来れないように。 「なに? かがみ、感傷に浸っちゃった?」 「あんたは、どうなのよ」 「さすがの私も、制服着るのが最後だからねぇ、制服は萌えの固まりなのだよー」 「あんたはいつもそれだな」 軽口をたたきながらも、滲む心は隠せない。 こなたも、遣り残したこと、あるのかな? それが、それがもし、私とのことだったら、と夢見ずに居られない。 私は馬鹿だ。 「かがみんの、最後の制服姿GET!」 「あ、こら、何勝手に写メとってるのよ!」 携帯を取り上げようと、こなたに近づく。 すると、こなたがいきなり抱きついてきた。 「おおー、かがみんは柔らかいなー」 いつもなら、どこ触ってる、と怒って振り払う場面だった。 でも出来なかった。 いつも、いつも、こんな風にからかって。 私が、どんな気持ちだったか……。 「あれ? かがみん?」 私は、こなたを強く強く抱きしめかえした。 「え?え?」 最後の機会。 そう思うと私は、自分をコントロールできなくなっていく。 「覚えてる? こなた、あの、泊まった夜に、私とあんた、キス……したじゃない」 もう、引き返せなかった。 あふれ出した思いを、元に戻す事は、誰にも出来ないんだ。 「あれは……」 「ずっと! 忘れられなかった! なのにあんたは、いつもいつも、私をからかって! 私が、どんな気持ちでいたか、あんたには分かんないでしょ!? 好きになっちゃ駄目だって、ずっと、ずっと思ってたのに!」 ずっと、思ってた。 こなただけを、ずっと。 私達は光差す教室の床に倒れこむ。 「か、かがみ……」 「いつも、こなただけを見てた。一番近くで。優しくされるたびに切なくなって、冷たくされると、なきたくなって、気付いたら、私、こなたのこと……」 きっと私は、必死な顔をしているだろう。 でも押し倒されたこなたも、いつもは見せない焦った顔をしている。 私は、あふれ出した思いに押されるようにして。 こなたに口づけた。 こなたは、抵抗しなかった。 「好きなの、誰よりこなたが好きなの、卒業して、全部忘れようと思ってた。でも、あんたが、いつもみたいにからかうから、私……」 もう、こなたしか考えられない。 「かがみ……私だって、私だって!」 いきなり、こなたが私をはねのけ、押し倒した。 驚きに私は固まる。 「私だって、ずっとかがみが好きだった! どんなにからかっても、いつか彼氏が出来て、笑顔でかがみを見送らなきゃいけないんだって思ってた! あの夜、あんな風になっても、何かの間違いだって、そう思い込もうとしてたのに! かがみがそんな風に言ったら、私……! だって、だって女の子同士なんだよ!? みんなに、気持ち悪いって思われちゃう……」 私はこなたの眼を見た。 揺れる瞳。 私は、もう、迷わない。 「関係ないよ」 「え?」 「みんななんか関係ない。私にはこなたしかいないから……!!」 「かがみ……」 「こなた……」 そして私たちは、それが全く自然なことみたいにキスをした。 忘れることができないくらい優しく、そっと。 抱き合ったぬくもりが、強く強く私たちを包んでいたのを覚えている。 「かがみ……!」 もう、私たちは止まる事ができない。 求め合うのが自然な事みたいに、互いの体をまさぐり、服を脱がしていく。 「こなた……」 興奮に眩暈がして、私は何度も何度もこなたに口づけられながら、互いにその体を撫で、服を脱がしていく。 もう、戻ることはできない。どうしても、できない。 そして遂に互いに生まれたままの姿となった私たちは、互いに貪るように体を重ねた。 「かがみ……!」 「こなた……こなた!」 激しく、どこまでも落ちていくように私はこなたを求め、こなたもまた私を求めた。まるで二頭の獣になったように、私たちはただただ互いを求め合った。 互いの汗で濡れ合い、湿った音を隠しもせず欲情しあう私たちは、際限なく行為に没頭し、名前を呼び合い、口づけた。 そして遂に上り詰めるそのときに、痙攣するように互いに震えながら口づけあい、強く強く抱きしめあって私たちはその充実した幸福な感覚の中に落ちていった。 こうして、私達は、結ばれたのだ。 別々の大学に進学したけど、私達は変わらなかった。 今でもしょっちゅう会うし、仲も良い。 特にこなたに関してはその、恋人、同士だし。 「いやー、卒業すると何か終わっちゃう気がしてたけど、そうでもなかったねー」 「まあな、区切りがあると、変に焦っちゃうよな」 現実なんて、こんなものかも知れない。 「でもそのお陰で、こうしてかがみとラブラブ出来るよー」 「こら、ひっつくな!」 「えー、バカップルになろうよかがみー」 「い・や・よ、もう、油断するとすぐひっついてくるんだから」 いつものような私達。 少しだけ違うのは、もう私達の間にはいかなるひずみもなく、恋人という形に納まったこと。 きっと次にウサギの夢を見るとき、ウサギはキツネと結ばれ、いつまでもいつまでも末永く幸せに暮らすのだろう。 めでたし、めでたし。 だって、それが一番じゃないか? 「かがみ、新しいゲーセンがこんな所に!」 「もう、はしゃぐなよな」 「早く早く!」 私達は変わらない。 幾多の困難があっても、この先も、きっとずっと変わらない。 私はこなたの手を握り返して歩き出した。 今までよりも、ずっと素直な気持ちで。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(´༎ຶོρ༎ຶོ`)b -- 名無しさん (2023-08-24 02 06 44) かがみんこなたと逢い引きですね!この恋続くと良いですね -- かがみんラブ (2012-09-14 22 44 27) 結婚式には呼んでくれー!! -- 名無しさん (2010-06-26 07 56 40) 続きあったんですね! 幸せになれて良かったよー!! -- 名無しさん (2010-06-25 19 51 37) なんかユメにみたシーンでした! すごいドキドキでした!! -- プリン (2010-02-08 20 18 24) 教室のシーンで谷口が再生された俺は負け組 -- 名無しさん (2010-01-22 20 49 16) リリカルで良かったgj! -- 名無しさん (2010-01-10 04 05 37) 作者様、4作にわたる大作ありがとうございます! 涙が止まりませんでした。 -- 名無しさん (2010-01-07 00 52 01) やったーっ、2人に幸あれ。 作者様、ハッピーエンドで泣ける作品をありがとうございます。GJ -- kk (2010-01-05 00 30 30) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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「ちょっ…こ、こなたぁ…」 「かがみ…もうこんななってるよ…?」 「ばっ、ばかっ!恥ずかしいこと言うなっ!あ、あんたのせいなんだからっ…」 「えへへ…口ではそんなこと言ってるけど体は正直だね?ほらっ?」 「んっ…!だ、ダメぇ…」 「かがみ可愛いよ…大好きだよ。」 「あ…あん、こ、こなたぁっ!わたし…わたしもうっ…」 「なぁに?」 「私もこなた大好きっ!!大好きなのっ!」 「かがみ…」 「もっと…もっと愛してこなたっ!こなたこなたこなたっ」 「こ、こなたぁ~っっっ!!」 ドスンッ! 振動と共に痛みが体に伝わる。暗い…目の前が真っ暗だ。あれ…どうしたんだろ私…? 「お姉ちゃん!大丈夫!?」 「へ…?」 光が差し込む。目の前が急に開けた。そして悟る。私ベッドから転げ落ちたのか…。 「お姉ちゃん平気?」 呼ばれて見上げる。そこには心配そうな顔をしたパジャマ姿のつかさがいた。 「あ…おはようつかさ、大丈夫よ。」 恥ずかしいとこ見られてしまったな…しかも私あんな夢見てて…あ、あんな変な夢…何考えてるのよ私! 「お姉ちゃん、顔真っ赤だよ?熱あるの?」 「んあっ、ち、違うわよ、なんでもないっ。それよりどうしてつかさがここに?」 「え、え~っと…珍しく早く目が覚めちゃって、トイレ行こうと部屋を出たらお姉ちゃんの声が聞こえて~。 そしたらなんかうなされてたみたいだったから。」 「そ、そっか。ごめんねありがと。」 なんたることだ、声まで出ていたなんて…変なこと言ってなかっただろうな…?「じゃあ私下行ってるからね。」 「あ、うん、私もすぐ行くわ。」 パタン… 部屋の扉が閉まる。私は落ちた布団をかたす為起き上がる。ガチャ… 不意に扉が少し開いた。つかさが赤い顔をして隙間から顔を出している。 「あ、あのお姉ちゃん…」 「え、な、何?」 「こなちゃんと…お楽しみでしたね。」 ―ピシッ!― そんな音と共に頭から足元にかけて亀裂が入った気がした。なにも言い返せずただ佇む私がいる。 「えへへ…結婚式には呼んでね。」 そう言ってつかさは再び扉を閉めた。 「…き、聞かれてた…の?」 ジリリリリリリリリリ…… 目覚ましの音が鳴る。もう覚醒しきった私には必要のないものだったが、茫然自失としている私にはそれを遮ることは出来なかった。 ~想いが重なるその前に③~ 「やふ~、かがみん。」 「おっす、こなた。」 時刻は午後1時過ぎ。今日から夏休みが始まった。そして今こなたからの電話をとったところ。 唐突だが、私はこなたが呼ぶ「かがみん」という言葉が大好きだ。こなたしか呼ばない愛称(?)で、なんか特別っていうか そんな感じがして…すごく癒されるんだ。…べ、別にノロケてるわけじゃないからねっ! 「お~い、かがみんどったの?」 「えっ!い、いや~別に…あははは。」「ま~た変な妄想してたんだ~?かがみんはカワユイね~。」 ニヤニヤ♪ 電話を通してそんな擬音語が聞こえた気がした。 「ち、違うわよ!それよりなんの話?」「あぁ~、この前の旅行の話なんだけどさ。明後日大丈夫かな?」 「う、うん、いいわよ。」 「よかった~☆ホントはつかさやみゆきさんも誘うべきなんだろうけどさ、どうしてもかがみんと二人きりになりたくて…」 「えっ…」 珍しくしおらしくこなたが言う。…そっか、明後日は私達の… 「だ、大丈夫よ…」 「えっ…?」 「その…つかさ達も私達のこと分かってくれてるし…それにつかさも明後日からみゆきとどっか行くって言ってたよ。」 「そうなんだ。もしかしてあの二人…思いっきりフラグ立ってたりしてね!」 「またあんたはそんな発想を…とにかくこのことは気にしなくていいからね。」 「ありがとかがみん。それじゃー明後日は10時に駅前集合でよろ~。」 「は~い、分かったわよ。」 ガチャ 電話を切る。明後日はこなたと一泊二日の旅行だ。こなたはこの日の為に旅行に誘ってくれたんだ。そう…明後日は私達の…二週間記念日。 ~ガタンゴトン…ガタンゴトン…~ どんより曇っていた空から光が差し込む。今日はまだ姿を見せていない太陽は徐々にその姿を現わし始めている。窓の向こう側には一面の緑。 そこに生命力逞しく息づく草々は今日初めて受ける太陽の光を喜ぶようにざわざわと揺れている。 更に手前には場違いな一本の青い草。決してピンと背筋を伸ばすことはなく時折左右に揺れ動く。 だが緑の中に栄えるその蒼はとても綺麗で。私はしばし窓の外の景色に心を奪われていた。 「か~がみん!」 青い草の主が呼ぶ。「ん?どうしたこなた?」 「この問題分かる~?何回やっても何回やってもこの問題が解けないのだよ~。」 椅子に深く寄り掛かりながら某携帯型ゲームをしていたこなたが聞いてきた。 「珍しいわね、あんたが詰まるなんて。どれどれ~、貸してごらん?」 「ほら、ここをこうすればできるのよ。」 「お~♪さすがかがみん、私の嫁!」 「だ・れ・が嫁だ!!」 「じゃあ私の夫!」 「そういう問題じゃないわっ!!」 そんないつも通りのボケとツッコミを繰り返しながら電車に揺られること約3時間、私達は目的地へ到着した。 「や~っと着いたわね~。さすがに少し疲れちゃったわ。」腕を上げ長い電車の旅で縮こまった体を思いっきり伸ばす。 「そだね~。だがかがみん、私達の旅はこれからが本番なのだよ!まずはあそこ行くよ。電車での打ち合わせ通りにっ。今日は遊ぶぞぉ~☆」 「はいはい、どこでも付き合ってあげるわよ。」 「んふふふ、かがみんっ♪」 「な、なによ?」 「二人だけの思い出…いっぱい作ろうね。」 ドキンッ!! いつもの猫口ながらいつもと違うしおらしさを見せながら、上目遣いでしかも頬を染めながらこなたは呟いた。 か…か、か、か、カワイすぎる…。 こ、こなたさんいつの間にそんな悩殺ポーズと台詞が出来るようになったんですか?ギャルゲか?ギャルゲなのか? …ってなに私思春期の男子みたいな反応してんのよ! 「かがみぃ?あれ、かがみ?」 こなたが下から覗き込むように話しかける。しかし返事はない、ただのしかばねのようだ。 「ありゃりゃ~、かがみんには刺激が強すぎたかな~。んじゃあちょいと失礼して…」 こなたがつま先をスッとあげ… ムチュ♪ 唇が重なり合う。 お父さん、お母さん、私はもう理性を保つことはできそうにありません。先立つ幸運をお許し下さい。 「こ~な~たぁ~!!!!」 思いっきりこなたに飛び付く。 「うわっ!かがみん落ち着いて…」 「あんたのせいだからね!責任とってもらうわよ~!」 「ちょっ、待っ…うわぁっ!そこ手入れたらダメだって…」「うるさいうるさいうるさ~い!!」 「かがみっ…人!人見てるからっ!か、かがみ~!」 「そんなの関係ねぇ~っ!!」 「ひょ、ひょんな~!うわぁっ!そこダメぇぇ~!!」 アッー!!! なにか素敵なことが始まりそうな、そんな夏休みが始まった。私にとってきっと今までで最高の夏休みになるだろう。 予感じゃない、確信している。だってこなたといるんだから。 どんな時だってコイツと一緒なら最高になるんだ。コイツがいれば私は最高に輝ける。 大好きだよ、こなた。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-03-09 17 57 33) どこに行くんでしょうね -- 名無しさん (2010-07-22 08 02 22) 先立つ幸運をお許し下さいwwwワラタwwwwww -- 名無しさん (2010-04-15 19 17 56) もう最高だ!! -- 東トウ (2010-03-29 22 42 08) 妄想で暴走なかがみGJ☆ -- チハヤ (2008-07-22 17 29 43)
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《邪神 かがみ(062)》 キャラクターカード 使用コスト0/発生コスト2/緑/AP10/DP10 【制服】 このカードが登場した場合、このターン、自分が次にプレイする「邪神 つるぎ」1枚は、使用コスト-2を得る。 (甘いのです、チョコだけに。) ささみさん@がんばらないで登場した緑色・【制服】を持つ邪神 かがみ。 登場した時に次にプレイする邪神 かがみの使用コストを2減らす効果を持つ。 邪神 かがみのコストを2減らせるので展開しやすくなる。 このカード自体はコスト0なので出しやすく、コスト消費を抑えやすい。 《月読 鎖々美(013)》《蝦怒川 情雨(026)》《邪神 つるぎ(042)》《邪神 たま(086)》とはサイクルをなし、対象が異なるだけで効果は全く同じ。 カードイラストは第1話「明日からがんばる」のワンシーン。フレーバーはその時のかがみのセリフ。 関連項目 《月読 鎖々美(013)》 《蝦怒川 情雨(026)》 《邪神 つるぎ(042)》 《邪神 たま(086)》 収録 ささみさん@がんばらない 01-062 編集
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こんな話を知っていますか? と不意にゆきちゃんがお話を始めた。 「あるところに、クマとキツネとウサギがいました。彼らはある時、行き倒れ ていた旅人を見つけて、その旅人を助けることを決めたんです。 クマはその力を活かして魚を取ってきました。キツネはその知恵を活かして 果物を取ってきました。けれど、無力なウサギは何も取ってくることが出来ず、 何も旅人に与えることができなかったんです……」 「そっ、それで、ウサギはどうしたの?」 何故ゆきちゃんがこんな話を始めたのかは分らない。けれど、私はウサギが どうしたのか気になった。 「つかささんは、どうしたと思います?」 けれど、ゆきちゃんは私の質問を質問で返してきた。 「えっ、えっ、その、あの……」 わからない。だから私は口ごもるしかなかった。 「……ウサギは火に飛び込んで、自分を食料として旅人に与えたんです」 ゆきちゃんは普段とは比べ物にならない低い声で、端的にそう言った。 「……ゆきちゃん……どうして、そんな話をするの?」 私の声は涙声になっていた。 私は最近様子がおかしいお姉ちゃんのことで悩んでいた。一生懸命考えたけ れど、どうしていいのか分らなかった。だから、ゆきちゃんの家にやって来て 相談した。 まだ大学入試が終わっていないから、こなちゃんには心配をかけられないし、 なによりゆきちゃんならきっと助けてくれると思ったから。 なのに、悩みを打ち明けるにつれてゆきちゃんからはいつものあたたかな笑 顔が消えていって、そして、突然こんな話を始めた。 涙が溢れてくる。どうしてこんな話をするのだろう。前に、こなちゃんがみ んなを動物に例えた話をゆきちゃんにも教えてあげた。だから、ゆきちゃんは 分っている。ウサギが誰のことを指しているのか。 「どうして、ゆきちゃん? どうして困っている私に、そんな意地悪な事を… …言うの?」 私は我慢ができなくなり、声を上げて泣きだしそうになったその時だった。 不意にあたたかなぬくもりに包まれたのは。 それは、私がゆきちゃんに抱きしめられたからだった。 「……ごめんなさい、つかささん」 「……ゆきちゃん?」 頭が混乱して、私は何がなんだか分らなかった。だから、ゆきちゃんの次の 言葉を待った。 「……私は、かがみさんが何を悩んでいるのか知っています。そして、その原 因の一端は……間違いなく私にあるんです……」 「えっ? ゆきちゃん、どういうこと?」 ますます混乱してそう尋ねると、ゆきちゃんの抱きしめる力が少しだけ強く なった。 「……つかささん、話を聞いてください。理解できないかもしれませんし、嫌 悪するかもしれません。けれど、力を貸してください。かがみさんを救うため に……」 「……お姉ちゃんを、救う?」 ゆきちゃんが何を言いたいのかはわからない。けれど私は、ゆきちゃんも私 と同じ様にお姉ちゃんのことで悩んでいたことがわかった。 「はい。その話を聞いて、私の事を嫌ってもかまいません。けれど、かがみさ んを先ほどの話のウサギに…しないために、どうか……力を…貸して…くださ い……」 顔を見上げた私の頬に、ゆきちゃんの瞳からあたたかなしずくが落ちてきた。 そして、ゆきちゃんは私を抱きしめたまま声を上げて泣き出してしまった。 困った私は、泣き止まないゆきちゃんを落ち着かせようと背中を優しく撫で た。 『「守る」という事』 「何が「守る」よ! そんなに軽々しく言える事じゃないでしょう!」 食後の一家の団欒は、私の怒声と共に終わりを告げてしまった。 「……なっ、なにむきになっているのよ、あんたは!」 まつり姉さんの言葉に、頭にのぼった血がすぅーっと引いていくのが分った。 そう、まつり姉さんの言うとおりだ。なんということはないテレビドラマの 一つのシーン。何事もまじめに取り組もうとはしない主人公が、恋人に涙なが らに引っ叩かれて改心し、君の事を一生守りつづけると告げるシーンが流れた だけ。 そして、まつり姉さんが、こんなこと言われてみたいと言っただけ。 ただ、私は一度引っ叩かれたぐらいで改心して、守り続けるなどと軽々しく 言うその主人公が好きになれなかった。だから、「そんなにぺらぺら「守る」 なんて事を言う男なんてろくなもんじゃないわよ」とつっかかってしまった。 そして言い争いをしているうちに、怒声を上げてしまった。ただそれだけ……。 「お姉ちゃん……」 「どうしたんだい、かがみ?」 つかさやお父さん、いのり姉さん達みんなが私を心配そうに見ていた。 「……ごめん。まだ入試のテンションが抜けないみたい……。今日はもう休む わ……」 いたたまれなくなり、私は皆にそう告げて立ち上がった。 「ごめん、つまらない事でむきになってた」 とまつり姉さんに謝りはしたけど、「まちなさい、かがみ!」という言葉を背 中に受けても、私は振り返ることなく自分の部屋に戻った。 部屋に戻るなり、私はそのままベッドに転がった。 「……だめだ。こんなことじゃ……」 そう声に出して自分を叱咤しても、何もする気になれない。 ふと何とはなしに視線を横にやると、枕元においてあった携帯電話が着信を 知らせていた。 携帯を開くとメールが1件来ていた。送信者はこなただ。 メールを開くと、 『いよいよ明後日が本番だよ! 大丈夫。かがみんへの愛のために、今度こそ 絶対合格するから! だからさ、とりあえず試験が終わったら私とデートして ね! 自分で決めた事とは言え、かがみ分が不足しているからさ』 いかにもあいつらしいメールだった。 「まったく、あいつは……」 私は苦笑するしかなかった。 私は何とか第一志望の大学に合格する事ができた。けれどこなたは第一志望 の大学に、私と同じ大学に合格する事はできなかった。 でも、こなたは本当に頑張ったと思う。3年生になってからだったとは言え、 今までアニメやゲームに費やしていた時間の全てを勉強につぎ込んで頑張った。 ただ私と同じ大学に行くために。……それだけを目標に。 私は返信メールに、気を抜かないで頑張る事と体調管理をしっかりする事を 自分でも細かすぎるだろうと思うくらい書き込んだ。そして最後に、『O,K よ』と書き込み、送信した。 すぐにメールが返ってきた。 『大丈夫だよ。心配性だな~、かがみんは。でもありがと。かがみんと楽しい デートをする妄想を糧にして頑張るよ』 そんなメールに、猫口で微笑むこなたの写真が添付されていた。 久しぶりに見るこなたの姿に、少しだけ気持ちが和らいだ。 第一志望がダメだったこなたは、第二志望校の試験勉強に集中するために、 試験が終わるまで私たちには会わないと決めてしまった。だから、もう2週間 近くこなたに会っていない。 「……気を抜かないで頑張れって、メールしたばかりじゃない」 寂しさに耐え切れず、電話をかけようとした自分に苦笑する。 携帯を閉じ、それをポンと枕元に放り投げて、私は天井を見上げた。 「……「守る」か……」 無意識に私の口からそんな言葉が漏れた。 そして沈黙。この部屋には私しかいないのだから、それは当然のこと。けれ ど私はその沈黙に耐えられなかった。 「私にできるのかな……ねぇ、こなた。私はあんたを守っていけるのかな?」 小声で、私はここにはいないこなたに尋ねた。 返事はない。 「ねぇ、答えてよ、こなた。かがみなら大丈夫だよって言ってよ」 返事はない。……残酷なまでの静寂だった。 「……当たり前じゃない。何を考えているのよ、私は……」 力なく苦笑する私の頬を涙が伝って行く。だめだ、と思っても止める事がで きない。 「……強くならないといけないのに。私が強くなって、こなたを守らないとい けないのに……」 そう、『愛しい』こなたを守るために、私は強くならなくちゃいけないんだ。 ……誰も助けてはくれないのだから……。 ★ ☆ ★ ☆ ★ あの時の私は自分の事ばかりで、ただ知っている知識を口にしただけだった んです。 あの人の事を思っての言葉ではありません。ただ拒絶をしただけなんです。 ……どれだけあの人は悩んだのでしょうか? 誰にも相談できない難題を抱 えて、たった一人で悩んだのでしょうか? そして、どれだけ悩んだ末に、私に……私なんかに相談を持ちかけたのでし ょうか? 相手の事をまるで考えない自己中心的な私の言葉を聞いて、あの人はどれだ け絶望したのでしょうか? 私はつかささんに全てを話しました。話しているうちに、あの人の、かがみ さんの心をどれだけ傷つける事を、そして追い詰める事を言ってしまったのか、 今更ながらに思い知らされて……自分の愚かさを再認識させられて……。 私は何度もつかささんに謝りました。「ごめんなさい、ごめんなさい」と何 度も。直接かがみさんには謝れないから。あわせる顔がないから。 ……いいえ、違いますね。私はかがみさんに会うのが怖いから、つかささん に謝って許してもらいたかったのだと思います。少しでも自分が楽になりたい から……。 「……大丈夫だよ、ゆきちゃん。私はゆきちゃんを嫌ったりしないよ」 優しい声。そして、私に向けられるつかささんの顔は笑顔でした。 つかささんは私の懺悔を聞いても、私に笑顔を向けてくれました。 私の思っていたとおりに……。 その笑顔で私は気持ちが楽になりました。 ズルイですよね? 私はつかささんが許してくれる確信がありました。 つかささんは優しいから、こんな私のことも許してくれると思っていました。 期待をしていました。 きっと、あの時のかがみさんも今の私と同じだったのだと思います。かけて ほしかったのは励ましの言葉。向けてほしかったのはあたたかな笑顔。 思い起こしてみると、『みゆき、あんたを親友だと思うから話すんだけど』 と、あの時かがみさんはそう前置きをしてから私に話してくれたんでした。 私を親友だと言ってくれたんです。私なら苦しみを和らげてくれると信じて くれていたはずです。なのに、それなのに私は……。 ★ ☆ ★ ☆ ★ 大学入試を終えるまでは良かった。合格に向けて一心不乱に勉強をしていた 時は、余計な事を考えている暇はなかったから。 考えていた事といえば、合格後のこなたとの楽しいキャンパスライフ。広い 部屋を借りての共同生活。きっと楽しい日々だろうと私は胸を膨らませていた。 けれど現実は上手くはいかず、こなたは試験に落ちてしまった。 私もショックを受けたけれど、落ちた当人であるこなたの落胆は酷かった。 合格発表のあの日、ネットを利用して自分の不合格を知ったこなたは、私の 家にわざわざやってきて、私に謝った。 「……ごめん、かがみ。私、落ちちゃった……。でも、でもね、まだ第二志望 に合格すれば、かがみといっしょに居られるから。一緒の大学には行けなくて も……ほら、もともと学部が違ったら講義も別なのがほとんどだし……。 次こそ頑張るから。絶対に、絶対に合格するから」 涙を見せまいと無理に笑おうとするこなたを私は抱きしめた。 必死に涙を堪えているこなたがあまりにも痛々しくて、かける言葉が見つか らなくて……私は抱きしめる事しかできなかった。 その時、私の腕の中で嗚咽が漏れるのを我慢しながら泣いているこなたを見 て思った。これから先に何があろうと、私がこなたを「守る」のだと。私が守 っていかなければならないのだと。 こなたのこんな顔を見たくない。泣き顔や悲しい顔は見たくない。笑ってい てほしい。そう思ったから……。 こなたを落ち着かせてから、私は手始めにこなたの第二志望校の入試対策を 行おうと考えた。幸いな事に試験までは2週間以上余裕があったし、この1年 でこなたはしっかりと全ての科目の基礎を身に着けているのだから、あとはど うしても苦手な部分を潰していけば良いだけのはずだ、と。 しかし、その事を話すと、こなたは首を横に振った。 「気持ちはすごく嬉しいけど、大丈夫だよ、かがみ。それくらいの事なら私一 人でも大丈夫だから……」 「でも……」と私は食い下がったけれど、 「お願い、かがみ。私を信じて……」 そんなこなたの懇願に、同意せざるを得なかった。 「ありがとう、かがみ。かがみのおかげで元気が出てきたよ。愛の力は偉大だ よね~」 私の同意に、先ほどまでのしおらしい態度はどこへやら、こなたは軽口を言 って笑った。いつものこなたの笑顔。私の大好きな笑顔だった。 「ばっ、バカ、そういう発言は自重しろ!」 「真っ赤になったかがみん萌え~」 いつもと同じ緊張感のないやり取りがとても嬉しかった。 だからその日は笑顔でいられた。笑顔でこなたと別れられた。幸せな気持ち でいられた。……だけど、それは長くは続かなかった。 合格発表から3日後。たった3日なのに、私はこなたに直接会う事ができな いことが寂しくて仕方がなかった。 予定をたくさん入れていた。まずは合格祝いに、こなたと二人で少し値のは るレストランで昼食を食べて、帰りはゲマズに行って買い物をする。随分とア ニメやマンガを絶っていたこなたは、目を輝かせて嬉しそうに商品の物色を始 める。私はそれを「やれやれ…」とか言いながら……。 「……しかたないわよね。こなただって我慢しているんだから」 こなたの事を「守る」と決めたのに、私の方が先にまいってしまった。こな たに会えないことが辛くて仕様がない。 「2週間とちょっとじゃない。すぐよ、すぐ」 そう自分を言い聞かせる。 試験が終わればいくらでも遊ぶ事ができる。そして春になれば、こなたとの 共同生活を始めるんだ。 2週間くらいあっという間に過ぎていく。寂しいけれど、私はこなたを信じ て待っていればいいんだ。 「でも、もし今度も駄目だったら……」 自分が発したその言葉に、私の体は凍りついた。気落ちしているから思考が ネガティブになっているだけだと思おうとしても、一度芽生えた不安は消えて はくれなかった。 「……大丈夫よ。もし駄目でも、私と一緒に暮らしながら予備校に通えば……」 支離滅裂な事を言っているのは自分が一番分かっていた。 仮にこなたが予備校に行く事になったら、私の両親もこなたのお父さんも共 同生活を認めてはくれないはずだ。当たり前だ。大学も勉強をする場に違いな いがある程度の自由はある。けれど予備校は試験に合格するためだけに行くと ころ。翌年の合格のために必死になって勉強をする場所だ。予備校の寮かな にかに入って、勉強するのが本来の姿だろう。認めてくれるはずがない。 不安な思いが膨らんでいく。こなたと離れ離れになるかもしれない。最低で も1年はこなたと離れ離れになる……。たった3日会えないだけで寂しくてた まらないのに。それが1年も続くと思うと……。 体が震えだした。怖い、怖くて仕方がない。 「そうだ、私も予備校に通えば……。もっと上の大学を目指すと言って……」 私の思考は、すでに最悪の事態が現実となる事を前提としていた。けれど私 はその事をおかしいと思うこともできなかった。 「……お父さんやお母さんたちがあんなに喜んでくれたのに、そんな事できる わけないじゃない」 それに、4人も子供がいる我が家の財政状況を考えると、そんな余計なお金 をかけられるはずがない。 その後も色々と浅知恵を出しては自分で否定する事を繰り返した。 ……八方塞だった。もしもこなたが試験に落ちてしまったら、何も手立ては ない事が分った。そして同時に自分がどれだけ無力なのかが分った。 「守れない。私はこなたを守れない……」 悔しくて涙がこみ上げてきた。私はこなたを守りたいのに。 「頑張らないと……」 私がどうにかしなければいけない。今のままでは何もできないから。もとも と私とこなたの関係は世間に認められるものではないのだから。 そう決意を固めようとした。それなのに、私のネガティブな思考は、 「守っていけるの? 私が……」 そうやってすぐに不安を増幅させる。 「私が守っていけるの? 世間の冷たい目から、こなたを守っていけるの?」 今後大学生活が終わっても、私はこなたとずっといっしょにいたい。一緒の 人生を歩んで行きたい。けれど、私は本当に守れるのだろうか……。 不安は広がっていき、私の心を侵していった。 それから何日かは何とか耐える事ができた。夜はほとんど眠れなかったけど、 頑張って普段の私でいようと努力した。けれど、 「お姉ちゃん、心配なのは分かるけど、こなちゃんならきっと大丈夫だよ」 ある時つかさにそう言われたから、私は普段どおりの私ではいられなかった ようだ。 その時はつかさに話をあわせて、「そうなのよ。一応友達だから、心配は心 配というか……」とか言っておいた。 「他に何か困っている事があるなら言ってね。私じゃ役に立たないかもしれな いけど……」 でも、つかさにそう言われてしまった。つかさは妙に鋭いところがあるから、 私が別の悩みを抱えているの感じ取ったのかもしれない。 ……その日までが精一杯だった。日が経つにつれて積もる不安は、私の精神 力の許容量を超えようとしていた。 一人で悩むのはもう限界だった。けれど一生懸命頑張っているこなたに余計 な心配を掛けたり、プレッシャーを与えたくないと思った。 つかさにもこんな事は相談できない。今まで秘密にしていた私とこなたの関 係を知ったら混乱してしまうだろうし、つかさは嘘をつくのが下手だから、誰 かに私たちの関係を漏らしてしまうかもしれない。 だから私は、信頼できる親友に相談する事にした。 そう、みゆきなら助けてくれると思ったから。 ★ ☆ ★ ☆ ★ 相談したい事があるとかがみさんから連絡があり、私はお茶菓子と紅茶を用 意して待っていました。 かがみさんの家から私の家までは距離があるので、どこかで落ち合う事にし ませんかと提案したのですが、人目があると話しにくいことだからと断わられ ました。 私はかがみさんの相談したい事とは、泉さんの事だと推測していました。 私にもかがみさんは親しい友人として接してくれていますが、泉さんは別格 な存在だと分っていました。 私やつかささんといっしょに居るときも、かがみさんは泉さんに話を振る事 が一番多いんです。もちろん、私はそのことに不満なんてありません。むしろ お二人のあたたかなやり取りが大好きでした。 お二人は本当に仲が良くて、大学へ進んでからもいっしょにいたいと、同じ 大学への進学を決めたほどです。あいにくと、泉さんが残念な結果になってし まいましたが、近くの第二志望校への合格に向けて頑張っているはずです。 だからきっと、かがみさんの相談事というのは、泉さんの手助けをしたいと いう事だと思っていました。そして、そのような相談事であれば、微力ながら 喜んでお手伝いするつもりでした。 本当に私は、お二人の「大切な友人」へのあたたかな心遣いとやり取りが大 好きだったんです。 約束の時間どおりにかがみさんは我が家を訪ねて来られました。 部屋に案内し、お茶菓子と紅茶をお出ししました。そして、かがみさんは私 に相談事を話して下さいました。それは私の考えていたとおり、泉さんの事で した。 ……けれど、その内容は私の想像していたものとは次元が違っていました。 「……ごめん、今まで黙っていて。でも、真剣なの。私もこなたも……。だか ら、お願いみゆき、力を貸して。私一人じゃ、不安で仕様がなくて…どうした らいいのか分らないのよ……」 そうかがみさんが締めくくったことから、ようやく話が終わった事が分りま した。けれどあまりにも突飛な内容に、私は唖然とするしかありませんでした。 私は、かがみさんと泉さんは大切な友人、つまり「親友」だと思っていまし た。けれど、それは違うと、お二人は高校3年生の春から、恋人」なのだとい うのです。 「……同性愛…ですよ……」 困惑する私の思考は、言葉となって口から出てしまいました。 かがみさんは、「うん、分っている」と頷きました。 「……同性を愛する思考をお持ちの方がいらっしゃる事は知っていました。で すが……」 「あっ、その、やっぱり引くわよね……」 かがみさんが顔をうつむけて言いました。 同性愛者と呼ばれる方たちの事は知識としては知っていました。そして、そ のような方たちのことについて、私はそのような思考の方もいるんですね、と しか思っていませんでした。 けれど、私の友人がそのような思考を持った方だった事を知って、私は戸惑 い、正常な判断をする事ができませんでした。 何故かがみさんが、何故泉さんが……。ぐるぐると頭の中で何度も何故と問 い続けて……私はゆっくりと口を開きました。 「……同性愛というものの事例はいくつもあります。国によっては同性での婚 姻を認めるところもあるほどです……。けれど、それは少数の意見です。大半 の人間はその様な思考には否定的です……」 何故こんな事を言ってしまったのでしょう。けれど、私の口は止まりません でした。 「生物が生きてなすべき最大の事柄は、種の保存です。ですから、非生産的な そのような思考が多数派にはなりませんし、なってはいけないんです。 ……禁忌とされる事柄は、禁忌であるゆえに人の好奇心を刺激します。です から、性倒錯の事柄を題材にした娯楽も存在するのだと思います。……けれど、 それは虚構の中でしか許されないと……思います」 声は震えていましたが、私は淡々と一般論を話していました。 「……分って…いるわよ……」 かがみさんの震えた声を聞いても、やはり私の口は止まりませんでした。 「誰からも理解されない状況は、強いストレスになります。……そしてそのは け口になるのは、近くにいる存在か、自分自身だけです……。 お願いです……最悪の…事態になる前に……」 ダン! とテーブルを叩く音が響きました。 「……もうやめて……もうやめてよ! 分っているわよ、そんなこと! でも、 私は絶対にこなたを傷つけたりなんかしないわよ! 私が、私がこなたを守る んだから!」 涙を流しながら、そうかがみさんが叫びました。 けれど、私は涙声になりながら話を続けました。 「…無理です……それは、無理です。かがみさんは、泉さんを守りたいと仰っ ていました。ですが、「守る」ということは並大抵の苦労ではないと思います。 わずかの間……想い人に会えないだけでも精神的に追い詰められて、私に、 他の人にすがってしまうかがみさんが、お一人で泉さんを守る事は…できない と……思い…ま……す。お願い…ですから……いつもの、お二人で……いて… …下さ…い……」 自分の言葉で私はようやく理解しました。何故こんな事をかがみさんに言っ ていたのかを。 ……私のエゴだったんです。私は、大切な友人と過ごしたこの三年間の日々 を、何よりも大切な宝物だと思っていました。大好きだったんです。かがみさ んたちとの、掛け替えのない友人たちとの毎日が。 かがみさんと泉さんの関係を肯定してしまったら、私の大切な思い出が壊れ てしまうと思ったんです……。だから、否定したかったんです。拒絶したかっ たんです。高校生活が終わっても、何年経っても、私はずっとずっと大切な友 人でいたかったんです。だから、だから私は、私の思い出の中のかがみさんと 泉さんでいてほしかったんです。そんな事が出来るわけがないのに……。 私は泣き崩れました。ただ悲しくて、悲しくて……。 好き勝手な事を言って、我儘を言って、そしてただただ泣いている私を、か がみさんはどんな目で見ていたんでしょうか? 泣きじゃくる私の頭を不意に誰かが撫でました。この部屋にいるのは私とか がみさんだけなのですから、それが誰なのかは考えるまでもありませんでした。 「ごめん、バカな相談をしたわ……。みゆきはなにも悪くないから、泣かなく ていいよ。……私の事、嫌って。……私が全部悪いんだから。みゆきは悪くな いんだから。ねっ?」 かがみさんはとても優しい声でそう言って、弱々しく笑いました。 「みゆきに迷惑をかけたりしないから。最悪の事態になんてならないから。私 が強くなる。私が強くなってこなたを守るから。ごめんね、困らせて……」 かがみさんはそう言って部屋を出て行きました。 私はただ泣いていました。自分が何をしたのかも理解せずに。 私は最低な事をしてしまったんです。困って、苦しんで、どう仕様もない時 に、私を頼って来てくれた大切な友人を傷つけて、追い詰めたんです。 ★ ☆ ★ ☆ ★ 「……私は、クマなのでしょうか?」 「えっ? ゆきちゃん、何を……」 心の中だけで呟くつもりだった言葉が口から漏れてしまいました。 私は言葉を続けました。 「私はあの時、ただ知識をひけらかしたんです。さも私の口にした言葉だけが 唯一の正論であるかのように言って。……私が言っている事が正しいと思わせ ることができれば、私の我儘を通せると考えたのだと思います……。 先ほどの話の中で、クマは簡単に魚を取って来たんですよね? なのに、無 力なウサギが困っているのを見ても、クマはウサギを助けませんでした。ただ、 自分の力を誇示したかったのだと思います。……自分だけが良ければいいと考 えていたのだと思います。私と同じよ…」 「違うよ!」 私の言葉をさえぎって、つかささんは大きな声で否定しました。 「ゆきちゃんは、クマさんなんかじゃないよ! ほわほわなヒツジさんだよ」 つかささんは真剣な顔でそんな事を言いました。けれど、すぐに顔を赤くし て……。 「えっと、その、胸大きいから、こなちゃんが言ってたとおりウシさんかもし れないけど……」 「えっ、あっ、すっ、すみません!」 私はずいぶんと長い間つかささんの顔を胸に抱いていた事に気づき、慌てて 体を離しました。 苦しくてさぞ不快だったでしょうに、つかささんはそんな体制のまま私の話 を聞いてくれていたんです。 顔を真っ赤にする私に、 「よかった。いつものゆきちゃんに戻ってくれて」 つかささんはそう言って輝かんばかりの笑顔を見せてくれました。 「ねぇ、ゆきちゃん。私は頭が良くないから、何が良い事で何が悪い事なのか は分らないけど、大丈夫だよ。お話とは違うよ。 だって、ウサギさんには優しいキツネさんがついているんだから」 つかささんの言葉の意味を私はすぐに理解しました。 「でもね、今、キツネさんは忙しいから、イヌさんとウシさんも力を貸してあ げないとダメだと思うんだ」 「……あの、ヒツジさんにしては頂けないでしょうか?」 私の要望に、つかささんは、あははっと無邪気に笑いました。 「私の方からお願いするね。お願い、ゆきちゃん。私に力を貸して。お姉ちゃ んを助けるために」 つかささんのその言葉に、私は「はい」と答えました。何度も、何度も。 こみ上げてきた涙でまたもや泣き崩れてしまった私を、今度はつかささんが 抱きしめてくれました。 「大丈夫。大丈夫だよ……」 そう言って、私の頭を撫でてくれるつかささんの手はとてもあたたかくて、 優しくて、私はいっそう涙がこみ上げてきて……。 つかささんは私が泣き止むまで、ずっと私を抱きしめてくれました。 ★ ☆ ★ ☆ ★ 静かに目を開くと部屋の天井が目に入った。 どうやらいつの間にか眠ってしまったらしい。時計に目をやるともうお昼に なる時間だった。 「まったく、つかさじゃあるまいし……」 そういえば、最近ろくに寝てなかったから、そのツケがまわったのだろう。 久しぶりの睡眠で少しは体調が良くなっているはずなのだが、気だるい感じ がまったく抜けない。 「……まつり姉さんを怒らせて、お父さんやお母さんたちも嫌な気持ちにさせ て……。何をしているのよ、私は……」 昨日の夜の事を思い出し、私は嘆息する。 「これじゃあ、みゆきの言ってたとお……」 弱気な発言を何とか飲み込むと、私はパンパンと両手で顔を叩いて気合を入 れた。 「強くなる……。うん、私は強くなるんだ!」 昨日は失敗したけれど、頑張る。私は強くなる。泣いてばかりいられない。 そう決意した私は、とりあえず空腹を訴えるお腹を満たすために台所に向か う事にした。 「あら、かがみ。ようやく起きたの?」 台所に着くなりお母さんが声をかけてきた。けれど食卓には誰もいない。休 日のこの時間帯なら、いつもであれば誰か一人ぐらいはいるはずなのに。 「いのりやまつり達はみんな外に遊びに出かけたわよ。お父さんはもう少しし たら来ると思うわ」 キョロキョロしていた私に、昼食のおかずを並べながらお母さんがそう教え てくれた。 「そうなんだ。……あの、お母さん、昨日はごめんなさい。私……」 私は、昨日みんなを不快にさせた事を謝ろうとしたけど、 「謝らなくていいわよ。誰だって機嫌が良くない時はあるんだから。ほら、か がみ。顔を洗っていらっしゃい。すぐにお昼ご飯にするから」 お母さんはそう言って微笑んだ。 「うん。その、ありがと……。顔、洗ってくる」 どんな顔をすれば良いのか分からなくて、私は逃げるように洗面所に向かっ た。 それから顔を洗って食卓に戻ると、お父さんがいつもの席に座っていた。 「おや、かがみ、起きたのかい」 私が入ってきた事に気づくと、お父さんは笑顔で話しかけてきた。 「うん。つかさみたいな事しちゃった。…あっ、その、お父さん、昨日はごめ んなさい……」 「だから、かがみ。謝らなくても良いって言ったでしょ?」 お盆に三人分の茶碗を乗せたお母さんが代わって答える。 「そうだよ、かがみ。お父さんやお母さんは怒ってないよ。でも、まつりには 後で謝って置いたほうがいいんじゃないかな」 「まつりだってもう気にしていませんよ。ほら、朝、食べてないからお腹すい たでしょう? 座りなさい」 食卓の上には美味しそうな料理が並んでいる。私はお母さんに促されるまま 席に着いた。 「うん。いただきます……」 そう言って私は黙々と昼食を食べた。お父さんとお母さんもしばらく何も言 わずに食べていたけれど、 「……こなたちゃんのことよね?」 不意にお母さんがそう呟いた。 「…………」 私は料理に伸ばした手を止めて、箸と茶碗をテーブルに置いた。 「……一応友達だからさ、やっぱり心配は心配なのよね。あいつの事だから、 受験票を忘れたりしないかとか考えていたら、ちょっと不安というか……」 私は何とかいつもの調子で答えた。 「そう……。たしか、明日が試験日だったわね。きっと大丈夫よ、かがみ」 「そうだね。こなたちゃんも頑張っていたみたいだしね」 お母さんとお父さんが優しい言葉を掛けてくれる……。私は二人に同意しよ うとして……。 「あっ、あれ、どうして……」 私の瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれだしていた。 「かがみ……」 「かがみ、どうしたの?」 私を心配するお父さんとお母さんの声。 「なっ、何でもない、大丈夫。大丈夫だか……」 何故だろう。涙が止まらない。堪えようとしても、ぜんぜん堪える事が出来 ない。 「かがみ!」 泣き止まない私をお母さんがぎゅっと抱きしめた。 「あっ、ああっ、うわぁぁぁっ~!」 まるでそれがスイッチだったかのように、火がついたみたいに私は泣き叫ん だ。 「大丈夫、大丈夫よ、かがみ……」 お母さんの優しい声。 「そうだよ、大丈夫だよ、かがみ……」 お父さんのあったかな声。 私の耳にはずっと二人の声が聞こえていた。 ……どれだけ泣いていたのか分らないけれど、私が泣き止むまで、お母さん、 そしてお父さんも私を抱きしめてくれていた。 「おちついた? かがみ……」 「何も心配要らないよ。お父さんたちがついているからね……」 ようやく泣き止んだ私に向けられる、二人の優しい笑顔。全てを受け入れて くれそうな笑顔。 お父さんとお母さんなら……きっと分ってくれる。そう思った。思いたかっ た。けれど……。 みゆきの顔が頭をよぎった。ショックを受けて泣き出してしまった、あの時 のみゆきの顔が……。 ……どうして、こんなに私は弱いんだろう。 みゆきが言っていたとおりだ。私はすぐに他の人にすがってしまう。 こんな私がこなたを守る事なんてできない……できるはずがない。 『誰からも理解されない状況は、強いストレスになります。……そしてそのは け口になるのは、近くにいる存在か、自分自身だけです……』 みゆきはそうも言っていた。 本当にみゆきの言うとおりだ。ただ、弱い私は周りの人たちばかりを困らせ てしまう。傷つけてしまう。 ……私はどうすれば良いのだろう。 私は、私は……こなたの側に居ないほうがいいの? 誰にも聞けないその問いを飲み込んで、私はまた泣き出してしまった。 「守る」という事・後編へ続く コメントフォーム 名前 コメント ( ; ; )b -- 名無しさん (2023-03-31 23 55 01) GJ ! このままだとあまりにもかがみが救われないので、ぜひ続きを 書いて欲しい -- 名無しさん (2008-06-12 21 49 45)
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「あつい」 手で顔を扇ぎながらそれだけを呟く。 「夏も近いし、仕方ないよ」 さらりと返ってくる返事。 「…………っ」 遠回しな抗議のつもりだったのだが、軽く躱された。 ああ、分かってはいたのよ。こいつには、そんな遠回しじゃ伝わらないと。 それなら残る手は 「あんたがべたべたひっついてくるからよ!」 耳元でおもいっきり突っ込んでやることだった。 「ぐぉぉ……耳がぁ……」 こなたがひどいよかがみんと、嘆きながら耳を押さえている。 あまりの暑さに耐え兼ねたか、いつもは下ろしている髪を一つにくくっていた。 揺れているポニーテールは本当にしっぽみたいで――って、それはさておき。 「自業自得でしょ。さっきから何回離れろって言った?」 「うーん……? 思い出せない」 「思い出せないくらい言ってるんだからさあ……っ!」 ああもう、と拳を握りしめて声にならない不満を頭の中でぐるぐると考えた。 何でこいつは尚も離れようとしないんだとか、そんなのばっかりだけど。 「ただでさえ暑いのに、くっついてたら余計暑くなるでしょ!」 「熱々カップルだからね。見せ付けてやろうぜ!」 「字が違う! しかも、誰に見せ付けるのよ!」 「ゆーちゃんとかに?」 そう言って、ドアを指差す。 その先には顔を赤くしたゆたかちゃんがいた。 「え…………、いつから?」 「かがみが、あついって呟いたあたりかな」 「結構前じゃない!」 てことは、こなたにべたべた引っ付かれてたところとか、全部見られてたっていう事、に……? 血の気が引くような音と爆発するような音がほぼ同時に響く。 「おお、かがみが器用なことを」 「ご、ごめんなさいっ! 暑いかと思って、麦茶持って来たんですけど……」 お邪魔だったみたいで、と続けるゆたかちゃん。 「え、ああ! そんなことないわよ? むしろこなたが引っ付いてたから暑くて暑くて」 ありがとう、と言いながらそれを受け取る。 冷たいそれが喉を通る感覚が気持ちいい。 「ええと、ところで」 「うん?」 歯切れ悪く、どうしようかなといった感じの表情でゆたかちゃんがおずおずと尋ねた。 「これからはかがみ先輩の事を、かがみお義姉ちゃんって呼んだ方が……?」 「………――っ!」 「あー、それもいいかもね」 きゃー、とかうわー、とか叫びたいんだけれど、なんかもう言葉にならない。 漫画的な表現ならば、ツインテールがぴん、と天まで突き立っていそうなくらいの衝撃だった。 「でもね、ゆーちゃん。かがみがお義姉ちゃんになるにはまだ早いよ?」 予想外の一言に吹きそうになり、げほげほとむせている私を尻目に、こなたが楽しそうに笑う。 「あ、そうだよね」 えへへ、と可愛く困ったような笑いを零しているけれど、ちょっと待って。 「げほっ……結婚するって決まったわけじゃないから!」 「……え?」 「そんな照れなくてもいいのにー」 眉を下げて、暗い顔をしているゆたかちゃんと、 私の背中を撫でる(と、同時に抱き着いている)こなた。 「暑い。そもそも、日本じゃ結婚できないでしょ」 ぐい、とこなたの頭を引きはがしながら言うと、誇らしげに胸をはられた。 「人間、やればできる」 「じゃあやってみなさいよ」 「なら、今からドイツに行ってこようか。ハネムーンも兼ねて」 「アホか!」 「あれ? サンフランシスコがよかった?」 「何でそんなマイナーな地域なのよ!」 いや、マイナーかどうかは知らないけれど。現地の方々すみません。 「我が儘だなあ」 「どこがよ! ていうか、今からなんて無理でしょ!」 と、意味がない掛け合いをしていると、ゆたかちゃんが出ていこうとしているのが目に入った。 「あれ? どうしたのゆたかちゃん?」 どきーん。 そんな効果音が聞こえそうなくらいに固まって、申し訳なさそうに振り向く。 「あ、あの、お邪魔みたいなので、こっそり出ていこう……かと……」 お邪魔ってそんなうわあ、なんていうか、うわあ。 「流石、ゆーちゃんは空気読めるね」 いや、私的にはこなたが少し自重してくれるから万々歳なんだけれど。 ああでも、さっきから爆弾発言飛ばしすぎだし、突っ込みが倍になって疲れるし、どうしよう! 「……かがみー? ゆーちゃんが困ってるよ?」 ぷすぷすと、湯気を吹いている私の前でこなたがぱたぱたと手を振る。 あ、ああ! 私が明言しないとゆーちゃんがなんだかいたたまれない空気になっちゃうわよね! 「あ、ああ、のね、私達は、そういう関係じゃなくて……」 「そこからですか!?」 「流石にそれはもう無理だよ!?」 「え、嘘ッ!?」 「かがみ、しっかりして! このままじゃ色んな方面の人に怒られる!」 「いきなりメタ的な事を言うなっ!」 「ええ!? 何でその突っ込み能力を現状把握に活かさないの!?」 「あれ? 今、何故か無意識に突っ込んじゃってた!」 「そういう事象には無意識でも反応できるんだ!? うわ、どこまで反応できるか実験してみたい!」 「だ、ダメだよこなたお姉ちゃん! かがみお義姉さん! 1+1はいくつですか!?」 「え、ええと!?」 「駄目だ! なんか本格的に駄目だ! ゆーちゃんに声荒げさせて突っ込ませるとかゆーちゃんの身体的にも、キャラ的にも!」 「だからメタ的なネタするなっ! あと、突っ込む所はそこかい!」 「こなたお姉ちゃんには突っ込めるんだ!?」 大混乱だった……らしい。 「私が? 何だって?」 「……覚えてないの?」 「うーん、ここ数分間の記憶が無いのよね……」 顎に手を添えながら考え込むけれど、どうしても思い出すことは出来なくて。 「あー、それなら思い出せない方がいいかもね」 「え、私、思い出せない方がいいような事を?」 「そりゃあもう、阿鼻叫喚。この世の地獄を再現したかのような……」 「流石にそれは嘘だろ!」 「あー、このテンポ……やっぱりかがみはこうじゃなきゃねえ……」 ぽわわーんと、妙に嬉しそうに目尻に涙をためながら愛おしそうに抱き着いてこようと―― 「ちょ、押し倒すな!」 「うんにゃ。こなたさんはもう我慢の限界なのです」 何キャラだよ! と、突っ込もうとするが、私が口を開く前にこなたが言葉を吐き出した。 「だって、かがみがゆーちゃんにばっかデレデレしてるから」 「こなた……?」 正直、妹のような存在に嫉妬するのもどうかと思うが……。 というより、そこまでデレた覚えもないし。 つかさになつくこなたを想像してみる。 あ、これは結構、つらい。 「……こな」 「というわけで、こなたさんは勢いでヤっちゃうのです! 主にナニを! ふしゃー!」 「だからそれ何キャラだよ!」 せっかくシリアスになりかけていたのに台なしだ。 いや、シリアスになっていたかどうかは分からないけど! 「じゃあ、かがみ。ちょっとじっとしててね」 「へ?」 ひょいと、手を背中に、もう一方は膝の裏に添えられて持ち上げられる。 「かがみ様抱っこ~」 「変な抑揚を付けるな!」 何だか改名されていたが、これはまさしく、お姫様抱っこだ。 やばい! これ、恥ずかしい! 「あ、暴れると落ちるよ?」 「う」 お姫様抱っこというものは、案外怖いのだ。 とっさの時に対応出来る格好じゃないし、安定しないし。 足をぱたぱたさせてみると、変な浮遊感が足に纏わり付いた。 「か、かがみ! 落ちるって!」 「せめてもの反抗よ」 まあ、そんな気持ちはこれっぽっちもなかったのだけれど。 こなたは、私をベットに降ろすと、隣に座ってぼんやりと考える素振りをした。 「さて、どうしようかな」 「まだ考えてなかったんかい!」 「いやー、するつもりだったんだけどね? 主にナニを」 「…………」 無言で抗議。 こなたはそれを見て、猫のように笑った。 「お姫様抱っこをされるかがみが可愛かったから」 「な……っそれが何の理由に……!」 急激に熱くなる頬を意識しながら、返答を待つ。 「違う方向に可愛がることにしようかなって」 「ち、ちがうほうこう?」 少し警戒しながら問うてみると、嬉しそうな笑みを見せながら 「ひゃっ!?」 勢いよく抱き着いてきた。 「今日はかがみんを猫可愛がりする方向で!」 「だ、だから、暑いってば!」 無理矢理引きはがそうとするけれど、首に回された手がそれを許さない。 「かがみ」 「なによ」 急に耳元で名前を呼ばれ、頬が熱くなるのを感じる。 「かがみがツンデレなのは分かってるけど、言ってくれなきゃ伝わらないよ?」 「伝えるって、何をよ」 「んー? 何だろうね」 抱き着かれているので表情は見えないが、こなたは、何かを言ってほしいように思えた。 それは、私の自惚れで、なければ。 「……大好き」 囁くようにぽつりと呟く。 「うん。私も」 そう。言わなきゃ伝わらないことは驚くほど多いのだ。 私は不器用だから、つい、ごまかしてしまうけれど。 少しずつ伝えていきたいと、思った。 ……ゆたかちゃんに嫉妬させちゃったのも、私がうまく愛情表現できないせいだしね。 「大好き」 もう一回。 私自身にも、聞こえないくらいに小さく。 目の前にあるポニーテールが喜んでいる犬の尻尾のように揺れていた。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-04-03 07 43 40) 逝ける…今なら萌え死ねる!!! -- 名無しさん (2010-05-05 17 34 21) 猫可愛がり想像して萌えた -- 名無しさん (2010-03-30 23 30 28) ? ゆたかちゃん、いい子だなwこなたはいい(義)妹を持ってるwとりあえず、内容に関してはかなり笑えたのでグッジョブと言っておくw -- 名無しさん (2008-06-22 00 38 30)
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「かがみ…」 学校も夏休みなある日、私はとある洋館に来ている。 「かがみぃ…」 今日はここでこなたとお泊りだ。もちろん二人きりで… 「かがみ…?」 なんで洋館なんかに来ているのかって?だってそれは… 「かがみぃ…っ!」こなたとの大切な二週間記念日だから… ~想いが重なるその前に(1)~ 「かがみん~!」 私を呼ぶ声がする。このちょっと気の抜けた可愛い声。 「あいつだな。」そう呟いて振り返る。小走りで近づいてくるまるで小学生のような小さい体。長い長いストレートの髪には鮮やかな蒼と飛び出る一本のアホ毛。そして私を見つめるエメラルドグリーンの瞳。どこをとっても私の一番のアイツ。 「こなた!?」 分かってはいたけれど少し驚いたような振りをした。 「やふ~かがみん!今日も一段と綺麗だね~。」 「い、いきなり何言い出すのよこんな朝早くからっ!しかも日本語間違ってないか?」 「まあまあ、細かいこと気にしないで~。この前あんなに愛し合った仲ではないか~。」 「なぁっ!!」 私の顔が真っ赤に染まる。朝っぱらからなに言ってくれるのよこいつは。 確かに一緒に寝たりして…き・きき・・キスとかしちゃったりしたけど…あ、愛し合うとかそんな先のことなんてしてないはず… あれ?でもでも、もしかして寝てる時に暴走しちゃたとか…?いや、そんなことは…でもひょっとして… 「あれあれ~?顔真っ赤にしてまた変な妄想してるのかな?かな?かがみはかわゆいね~。」 「う…あん、あぅ…」 なにも言い返せん…やっぱりこいつに弄ばれるのか… 「さあさあ、早く行かないと学校に遅れるよ。あと三日で夏休みなんだし気合い入れていこー!」 そう言ってこなたは私の手を握る。 「ちょ、ちょっと!誰かに見られでもしたら…」 「いいじゃん別に~。かがみんとはいつでもラブラブしたいのだよ!なんならこっちの方がいい?」そう言うとこなたは私な腕を引き寄せた。背の小さいこなたの顔がちょうど私の胸の位置にくる。いわゆる恋人組み?私に寄り添うこなたの表情はとても幸せそうだ。 「ね?いいでしょ?」 「…う、うん…悪くない…かな。」 「えへ~、デレかがみん全開萌え~。」 歩きながらふと上を見上げる。視界には突き抜けるような青い空。あと少しで夏休み。なにかいいことが始まりそうな、そんな期待を抱かせる青い青い空がそこに広がっていた。 …「お姉ちゃんとこなちゃん…どんだけ~」 コメントフォーム 名前 コメント
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今日も、北風の音を合図にして、星が昇っていく。 カレンダーの日付は、二月十三日。 明日はいよいよ、女の子たちのお祭り――バレンタインデー。 一歩外に出れば、そこは乙女たちの欲望番外地。 机の上にあるノートパソコンの画面の中では、粛々と過ぎていくイベントの一つなのに、 現実世界(リアル)でこの類いの行事を見る度、妙な違和感が残る。 リボンでラッピングされたチョコが、女の子から男の子へ。 最近では、ホワイトデーを待たずに、男の子から女の子へ贈ることもあるらしい。 それに『ニュースで見たんだけど、今年は友チョコっていうのが流行りそうなんだって』 と、今朝方ゆーちゃんが言っていたのを思い出した。 今の世の中では、女の子同士でチョコを交換することだって、いわば普通だ。 そうだよね、何の問題もないから、明日……。 ふと、ここまで来て私は、自分以外誰もいない部屋から、リズミカルに着信音を刻む 携帯電話のメロディが響くのを耳にしていた。 もしかしたら、考え事をするずっと前から鳴り続けていたのかもしれない。 ――さてと、電話の相手は誰だろうね。まあ、こんな夜更けにかけてくるのなんて、 寂しがり屋のうさぎ位しかいないんだけどさ。 「こなたー。アンタ確か、明日ウチに遊びに来るんでしょ?」 電波の先にいた通話相手――かがみは、早速本題を切り出してきた。 高校を卒業して以来、直接会う機会こそ減ったものの、携帯電話やメールでの やりとりは今でも続けている。 「そだよ。久しぶりに一日中しゃべり通そうって話だったと思うけど」 「だったら、なるべく早く来なさいよね。つかさが腕によりをかけて、 バレンタイン用のお菓子を作ってくれるみたいだから」 “つかさが”か……。 確かに、料理の専門学校に通うようになってから、ますます腕をあげたって いうのは聞いてたから、楽しみだなぁ、という気持ちはもちろんあった。 でもね、かがみ。 つかさを隠れ蓑にしたつもりなんだろうけど、私の目は誤魔化せないよ。 どれどれ、ここは一つ仕掛けてみようかな。 66 :『バレンタイン・イヴ』:2009/02/19(木) 00 37 06 ID kUSljfg2 「うん、期待しておくよ……ところでかがみんや。頬っぺたに、 味見した時のチョコがつきっぱなしだよ」 「えっ、嘘っ!? ちゃんと拭き取ったハズなのに……あっ」 ほうら、やっぱりボロが出た。相変わらず可愛いねぇ、かがみは。 「慌てなくたっていいよ。私のことが好きだから、ちゃんと味見してくれたんでしょ。 高校の頃、そんな感じのこと言ってたし」 「なっ、ち、違うわよ。これは私の意思でしたんじゃなくて、つかさが、その……」 「ふふん、それじゃあ明日は楽しみにしてるよ。んじゃ、バイニー」 「ちょ、おまっ。人の話を聞きな――」 私は、問答無用で通話を終了した。 その後、かがみから弁解のメールみたいな物が届いていたけど、 私はあえて中身を確認しなかった。だって、中身を知っちゃったらさ。 今度は、私の方が味見しにくくなっちゃうじゃん……なんてね。 ☆ ☆ ☆ キッチンには、お菓子作りの為の道具が一列に並んでいた。 業務スーパーで買い込んだ輸入物の板チョコ。湯煎用のボールや オーブンシートなんかの調理器具。それに、巨大な星形の型。 全て、明日かがみにチョコを渡す為の準備だ。 ……べっ、別にさ、去年や一昨年の時のお返しだとか、そういうのじゃないんだヨ? ただ単に、あたふたするかがみが見たいだけ。そこに居合わせて、いじり倒したいから、 作ることにした。ただそれだけのこと。 だけど、星形のチョコ……と見せかけて、実はヒトデなんだよとか言ったら 『また何かのアニメのネタなのか?』って突っ込まれるんだろうなぁ、きっと。 でも、怪訝そうな顔をして突っ込みを入れるかがみの顔を思い浮かべると、私は凄く癒される。 心拍数が上がって、顔が火照ってきて……あれ? なんだろう、この気持ち。 ああ、きっとエプロンをきつく着過ぎただけだよね、きっとそう。 「さ~てと。絶対に上手く作って、かがみを驚かせてあげなきゃね」 特別な夜が、更けていく。鼻をくすぐる良い匂いを奏でながら。 とろけるような、チョコの味。 私とかがみの関係は、ビター? ミルク? それともホワイト? 答えは、もうすぐそこまで。 溶け合えばいいな、私の生まれて初めての――バレンタイン・チョコ。 コメントフォーム 名前 コメント (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-07-18 08 12 26) むしろ、かがみにチョコを渡した瞬間に、サウナより熱い愛の空間が出来て、チョコが溶けそう -- 槍男 (2010-02-26 22 10 19) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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放課後。帰りの支度をしていると、隣のクラスから椅子が倒れるような音がした。 それに続いたどよめきの声。 嫌な予感がして、私は教室を飛び出していた。 「つかささん、そんなもの破いてしまってください」 廊下を猛ダッシュしていると、みゆきの声が聞こえた。 教室に飛び込んだ私の目に映ったのは、異様な光景だった。 興奮して泣きべそをかいているこなたの両手を捕えて、机に押さえ付けるみゆき。 こなたの視線の先には、何かを手に持っておろおろとみゆきを伺うつかさ。 それを取り囲み、好奇の目を向けるギャラリー。 こなたが、泣きべそ…?泣いてる…? 「………なにやってんのよ…あんたたち…」 思ったよりも低い声が出て、自分でも驚く。 クラス中に怒りの視線を向けると、みゆきとつかさ以外のギャラリーはおずおずと教室を出て行った。 「なに、やってんのよ…!こなた、泣いてるじゃない!」 怒鳴りながらみゆきに近付く。 みゆきはこなたの喉元を指先で撫でながら、悪びれない表情で言った。 「かがみさんには関係ありません。泉さんに、少しお仕置きをしていただけですよ」 みゆきの眼鏡が飛んだ。一瞬遅れて、私の左手の掌に熱が走る。 カッとなって、気付いたらみゆきの頬を張っていた。 「相変わらず乱暴で、恐ろしいですね…かがみさんは」 緩慢な動きで眼鏡を拾いあげたみゆきは、つかさに首を振ってみせた。 つかさはやっぱりおろおろしながら私を一瞥すると、持っていたものを机に置いて、みゆきに続いて教室を出て行く。 みゆきから解放されてしゃがみ込んだこなたは、しゃくり上げて泣いていた。 「こなた…落ち着いて…」 「やっ、やだ、よっ…、な、でっ、そ…なっ…!」 私の声が聞こえてないのか、それとも私に気付いてさえいないのか。 こなたは苦しそうに鳴咽する。 「…落ち着きなさいっての」 抵抗しようとするこなたを無理矢理抱きしめる。 腕の中でもがくこなたの振り回された腕が鼻にヒット。痛い。鼻血出そ…。 でも構わずに、私は小さな体を抱く腕に力を加える。 伝わってくる鼓動は、踏切の警笛のようだ。 いつもより高い体温。喘ぐような呼吸。温かい涙が、私の体を暖める。 しばらく抱きしめていると、落ち着いてきたのか、 私が危害を加える気がないことがわかったのか、こなたは両腕で私の体にしっかりとしがみついて来た。 子供のような動作に愛おしさを覚えて、頭を撫でる。 頬っぺたをこなたの頭に乗っけて、頬ずりする。 こなたが泣き止むまで、そうしていた。 「あったかいね。かがみは…」 こなたが胸元でくぐもった声を上げた。 「ん…落ち着いた?」 「うん、かがみの匂い…かがみの心臓の音…かがみの掌。すごく、安心した」 「ばっ、恥ずかしいことを言うな!」 「だって、本当のことだもん…」 そう言ってこなたは私の襟元に頭を擦り付けてくる。 「こ、こら!くすぐったいから止めれ!」 「…どうしよう」 突然こなたが真剣な眼差しで見つめてきた。 さっきまで泣いていたから目元が赤くなってしまっていて、なんだかかっこ良くないけれど。 「私、さ」 「なによ?」 「私…やっぱりなんか…すごく。かがみのこと、好きみ…ぶふぁっ!」 重大な事を言いかけて突然吹きだしたこなた。私は呆気に取られる。 「か、かがみん…鼻血出てる」 「なっ!?」 慌てて鼻の下をこすると、パリパリという感触。 さっきのこなたの一撃を受けて、ちょっと出血していたのが乾いたらしい。 「…」 「…」 「いや、その…ごめん。かがみ…」 はぁ、とため息を吐く。 かっこついてないのは私も同じだったらしい。 「それで。こなたは、鼻血出てることに気づかないかっこ悪い私でも…好き?」 照れ隠しにちょっと意地悪に問いかける。 「…大好き」 また泣き出しそうになってるこなたを、さっき以上に優しく抱きしめて。 「私も、大好き。大好きだよ、こなた…」 この先は私とこなただけの秘密なので暗転。 「…なるほどね」 事の発端である、つかさが手に持っていたもの。 私とこなたの、ツーショット写真。 自分で言うのもなんだが、お似合いのカップルのように仲良さそうに写っている。 後で焼き増し頼もう。 「珍しく家で宿題やったら、ノートに挟まったみたいで…」 それがぴらっと落ちて、見つけたみゆきが乱心したらしい。 「慣れない事はするもんじゃないよね」 「いや、そこは慣れとけよ」 突っ込みつつも考える。 もしかしたら、みゆきもこなたのことが…。 いくら私のこなたを泣かせたからといって、いきなりビンタはまずかった気がしてきた。 ごめん、みゆき。 でも。 「大丈夫。何があっても私がこなたを守ってあげるから」 「…やっぱりかがみんは、武士みたいで男前」 軽口叩きながら真っ赤になってるあんたは、素直じゃなくてかわいい。 なんて。こなた曰くツンデレの私には言えなかった。 「ただい(ry」 「お姉ちゃああああああん!」 玄関を開けたら2秒でつかさ。 どっすんと音が鳴る勢いで抱きついてきた。 「あんたは私が憎いのか…」 「ご、ごめんね!お姉ちゃんごめん!」 はぁ。おっと、またため息吐いてしまった。 今の幸せはツワモノだから、これくらいじゃ逃げないだろうけど。 「私の部屋で話そう。ここじゃちょっと」 「う、うん」 玄関開けっ放しでは、流石にね。 「それで。みゆき、なんか言ってた?」 つかさからは言い出しにくいだろうから、私から話を振った。 「…ゆきちゃん、あの後泣いてたの」 「あちゃぁ…」 やっぱり、みゆきもこなたのことが…。 「それで、その後急に笑い出して」 「えっ!?」 「かがみさんにお伝えください。私、諦めませんから♪って…」 「えええっ!!?」 こなたがみゆきに襲われたり(性的な意味で) かがみに守られたり、慰められたり(性的な意味で) つかさがみゆきに襲い掛かったり(性的な意味で) するのはまた別のお話。 終われ コメントフォーム 名前 コメント GJ!...? -- 名無しさん (2022-12-23 12 29 01) 続きが読みたい…← -- 名無しさん (2010-05-28 02 21 37) さすがミウィーキーマウス -- 名無しさん (2009-12-30 09 36 22)
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柊かがみ T-01 「絶望の1日の、はじまり」 それは灰被りをステージへと導く魔法使いか、取り返しのつかない契約を迫る悪魔か、または奴隷戦士の為の調教師か。 西暦2007年11月10日の土曜日が24時間を終え、改装工事による休業日の初日――11月11日の日曜日を丁度迎えた瞬間、 ショッピングビル――ブランシェ(Branche’)の店内に存在する全てのモニターが光を点し、その中に映像を浮かび上がらせた。 状況を飲み込めず困惑したままであったかがみの目の前。 2階までが吹き抜けとなったフードコートの天井近くに設置された巨大モニターも他と変わらず同様で、 それを見上げる彼女をまるで見下ろすかの様にその中に一人の人物の姿が映し出される。 『……――ようこそ、挑戦者達よ』 そういった出だしで話を始めた男に取り立てるような際立った特徴は見られない。 よく見かけるようなスーツ姿の中年男性で、物腰や着ている高価そうなスーツを見るとどこかの会社役員なのか、 もしくは場所柄と彼の前に置かれたテーブルの上に載った雑多な物を見るに通信販売のセールスマンなのか、 ともかくとして……彼を見たかがみの第一印象はそんな感じであった。 『本日はこのリニューアルを目前とした複合ショッピングビル・ブランシェで執り行われる最後の宴に参加していただき、 まずは進行役と執行責任者である私――黒崎義裕より感謝の意を表させていただきます』 黒崎義裕と名乗った男は穏やかに一礼。 慣れているのだろうとそう思わせる貫禄のある所作を見せると、ぽかんとしているかがみに構うことなく話を次へと進めた。 『まずはこれを見られている方々に注意を述べさせてもらいます。 この放送は一度きりで決して繰り返しはしません。 あなた方の命運に関わることですので、どうかお聞き逃がしの無い様ご注意ください』 命運――その言葉を聞いてかがみは心の中にある漠然とした不安が形を持ち始めたことを意識しだした。 視線はそのままに片手を首輪に、そしてもう片手に首輪から垂れ下がった名札を握り、男の次の言葉を待つ。 見ている者の緊張の糸を絞るためか、少し長めの間を置き――そして男は事の説明を開始した。 『混乱されている方がほとんどだと思いますが、それも無理はありません。 このイベントの参加者はこちらが勝手に選び、そして拉致という方法で強引に連れてきたのですから――』 それを謝罪しますと、モニターの中で男は再び一礼。 拉致――意味は知っているがしかし自身の近くには無かった言葉にかがみの身体は凍りつく。 そして男が続けた、警察に通報しても無駄だということ、我々にはそういった権力と実行力が存在するという言葉に 自分が非日常の中に――しかもそれは本棚をどんどん浸食してゆくラノベの中で見られるような愉快なものでなく、 限りなくリアルで、犯罪や誘拐、監禁や人身売買といった、そんなあるとは知ってても決して自分には縁が無いだろうと そう思っていたそんなものに――巻き込まれてしまったのだと、冷えた心の奥底でそう実感してしまっていた。 『皆様のことを最初に”挑戦者”と呼称させていただきましたが、その通りに皆様にはあるゲームに挑戦していただきます』 そして男はそのゲームの名前を明らかにした。 囚われの身となった人間達が持てる全てを総動員し、死力を尽くして挑まなければならない命を賭けたゲーム。その名は―― ――バトル・ロワイアル ◆ ◆ ◆ 決して暖房が効きすぎているわけというでもないのに、かがみはセーラー服の下にじっとりとした汗を浮かべた。 バトル・ロワイアル――その言葉に含まれるひどく嫌なものを感じ取り、緊張に身体を強張らせる。 『この企画の趣旨を簡潔に言い表しますと――つまりは、殺し合い』 思い浮かべた予感が即座に現実となってしまったことにかがみは眩暈にも似た絶望を覚えた。 現実であることを肯定する事実と、これが現実ではないと否定したい願望が綯い交ぜになり、酩酊感と吐き気を覚える。 これがただのドッキリ企画だとそう思いたい。そうであるだろうと思えられる材料を見つけたいと考えるものの、 しかしこんな時に限っていやに冷静な自分の一部分がそんな淡い願望を次々と打ち砕いていた。 そして一縷の希望を――これが嘘だという言葉を期待して、かがみはモニターを見続ける。 『我々が招待させていただいたあなた方30名により、殺し合いをしてもらうという企画です。 勿論、何もなければあなた達はそんな馬鹿げたことはしないでしょう。 ですが、あなた達は我々の言葉に従うしかない。なぜならば――』 と、そこで言葉を区切りモニターの中の男は脇に立てられていた一体のマネキンを指差す。 真白なマネキンに服は着せられておらず、装着されているのは首輪のみ。男の指先はその銀色の首輪へと向けられていた。 1秒か2秒か……空白の時間が過ぎ、そしてその次の瞬間。マネキンの喉元が渇いた音と共に――破裂した。 『御覧のとおり、皆様に嵌めさせていただいたこの首輪には爆薬が仕掛けられております。 決して派手なものではありませんが、爆発すれば致命傷は免れ得ません。 我々の意にそぐわない行動を取ればこれは爆発しあなたの命を奪うと、そうご理解ください』 未だ薄く煙をあげるモニターの中の首輪を見て、かがみは自身の首輪に触れていた手を恐る恐る離した。 爆薬が仕掛けられていると知ると途端にその存在感が増し、重さも息苦しさもそれまで以上に強く感じられる。 まるで、もう首と胴体が離れているような、首輪により断絶されているような、そんな錯覚さえしていた。 『では、改めまして……ルールの説明を行わさせていただきたいと思います』 ◆ ◆ ◆ 『まず、第一にあなた方参加者30名により殺し合いをしてもらう――この中に禁じ手はありません。 己の命を守るためにどの様な手段を用いようとも、我々はそれを非難したりルール違反だと断ずることはありませんのでご安心を。 またこのゲームの最中に行われた行為におきましては一切法律で罰せられることがないことを予めお伝えしておきます。 このゲームが終了した後、例え何人殺害していようともあなたが警察に捕まることはありません。 その点は我々を信頼して、憂い無くゲームに集中していただくことを望みます。 では肝心のゲームの決着方法についてですが……、 次の午前0時を終了の時間と設定し、その時までに最後の一人となっているというのが勝利条件となります。 勝利者は例外なく一人のみ。 時間が来ても決着がついてない場合は全員失格とし、ドローゲームとして全員の首輪を爆破させていただくことになります。 24時間は決して長い時間ではありません。悠長に事を構え、醜態を晒す事のないようご注意ください。 そして、勝利者への待遇ですが……、 まず第一にそれ以降の安全と法律よりの保護は勿論、我々より賞金十億円を進呈させていただきます。 これも決して冗談ではありませんのでご安心ください。 また金銭の受け渡し方法につきましても――……』 十億円――と、些か現実味に欠ける金額に思考が停止しているかがみの前で、男はその譲渡手段について説明を続けていた。 海外の銀行口座を用意できるだとか、貴金属や証券、土地、権利、どこかの役員としての報酬――etc.etc. 世間や警察に目をつけられないためのカモフラージュの方法が多岐にわたって存在すると。 まるで、ビジネスマン同士の取り引きに居合わせたかのような――そんな場違いな感を抱き、そして同時に 粛々とそれを語る男の姿に、彼らにしてもこれは決して冗談や遊びではないのだと――彼女はそんな印象を受けていた。 『次に、皆様方に嵌めていただいている首輪について説明いたします。 先程御覧いただけましたように、その首輪には爆薬が仕掛けられておりこちらは任意にそれを爆破することができます。 また首輪を無理に外そうとしたりビルの外に出ようとすると、それを感じ取った首輪が自動で爆発するのでご注意ください。 他に、後で述べさせていただきます”禁止エリア”に踏み込むことでも首輪は爆発します。 ただしその場合においては、爆破までに30秒の猶予時間が設けられていますのでその間に退出すれば問題はありません。 そして、これは首輪について最も重要なことですが……、 首輪からぶら下がっている名前の書かれたタグ。これを引っ張って抜くことでも首輪は爆発します。 この場合におきましても爆破までには30秒の猶予がございますので、即座に挿し直せば問題はありません』 言い終わると、男は説明したとおりのことを新しいマネキンと首輪で実演してみせた。 首輪の喉元の下からぶら下がったタグを引き抜き、電子音によるカウントダウンが始まることを見せてみると 鎖の先についたプラグを首輪の元の位置に刺してそれを止め、そしてもう一度抜いて30秒経つと爆発することを証明する。 かがみはそれを見て、自身の首輪からぶら下がったタグをそっとセーラー服の中当ての中に仕舞い込んだ。 『では先程申し上げました禁止エリアについてですが……、 まずこのゲームを行う舞台。それがどこからどこまでなのかを説明させていただきます。 このショッピングビル・ブランシェの1階より4階までの、原則的にお客様が立ち入れる場所のみを舞台とします。 故に、基本的に従業員用の通路やバックヤードその他諸々は利用できません。 ただし店舗等のレジカウンターの中や飲食店の厨房の中などは制限してない場合もあります。 舞台とそうでない場所の境界には”KEEP OUT”のテープが張られていますのでそれを見てご判断下さい。 またエレベータも稼動していますが、これも1階から4階までにしか止まらないので留意をお願いします。 改めまして禁止エリアについてですが……、 時間切れによるドローゲームができるだけ起きないよう、舞台を狭くするために ゲーム開始より6時間経つ度、1階より順に1フロアずつそこを立ち入り禁止とさせていただきます。 またその際に起きましては館内放送にてそれをお伝えしますのでお聞き逃しの無いようご注意ください。 加えて、放送ではその段階でのゲームの進捗。生き残り人数や脱落者の発表を行うことを予めお知らせしておきます』 淡々と進むそれにかがみは空恐ろしいものを感じていた。 ただ粛々と説明を続けるだけの男には、なんら狂気も荒ぶったところも感じられない。 それがただ怖かった。まるで常識の通じない異国に迷い込んだような、自らの中に頼るものの無い不安感があった。 『それでは、もうすでに確認しておられる方もいらっしゃるでしょうが、近くに黒いデイパックがあることをご確認ください。 ……ありましたでしょうか? それはこちらより参加者の皆様にお配りした、ゲームを進めるに当たっての最低限の物資です。 その中には私の目の前に並べられている物と同じ物が収められています。 まずは、このゲームの舞台となるブランシェの1階から4階までの見取り図。 御覧になっていただければ解ると思いますが、配布したものには店内の案内板には見られない印を打ってあります。 これは”タグ交換所”の場所を示しており、あなたが誰かから得たタグを数に応じた武器と交換できる場所となっております。 つまりはゲームに対し積極的であることが有利に働くという仕組みですので、ぜひご活用ください。 次に全参加者の名前を記した名簿とメモ、筆記用具一式。 ゲームの進行途中で誰が脱落して誰が残っているのかなど、いついかなる時も情報は軽視できません。 こちらはそれらを扱うためにご活用ください。 名簿を見て気付かれたでしょうが、ほとんどの方には友人や家族など心当たりのある名前が見られるでしょう。 即座に殺しあわれても構いませんが、そういった見知った相手と手を組む、といったことも我々は禁じてはいません。 時に利用し合い、時に裏切る――それも先に述べました情報と同じくゲームの駆け引きの一つです。 また、今生の別れとなるのが惜しいという相手もおられるでしょうし、取り敢えずは知った人間を探すというのも悪くないと 私個人から皆様方にそうアドバイスさせていただきます。 そして、こちら側で時刻を合わせた腕時計が入っております。 すでに時計を持っておられる方には不要かも知れませんが、 ゲームに使用する時間はその時計の時刻を基準としていますので、自前の時計とズレがないか一度ご確認ください。 ……最後に、このゲームにおいて最も重要な相手を殺すための武器が入っております。 ですが、これは今までの物と違い一人一人異なる物を用意させていただきました。 例えばナイフであったり拳銃であったり、はたまたライフルであったり……という訳です。 これは有利不利によりゲームの戦略性を増すための施しであり、ゲームが始まればそれを実感していただけると思います。 ライフルなど、中には大きさの問題で鞄の中ではなく外に出ている場合もございますが、 その場合でも鞄の近くに置かれているはずなので忘れていかぬようご注意ください。 では、以上を持ちましてバトル・ロワイアルの説明を終了とさせていただきます。 もうすでにゲームは開始されておりますので、無為無念の死を遂げぬようそれぞれ全力でお取り組みください』 そして、最初がそうであったように全てのモニターは唐突に光を失った。 ノイズを映すことも無く、まるでずっとそうであったかのように、今のが幻だったかのように画面は真黒のまま。 まだ画面を見上げたままのかがみをぽつんと残し、止まることのない流れが今静かに滑り出す。 バトル・ロワイアルが始まる。 next⇒
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ゆれたい・三 私達は帰途に就いた。陽は沈み、西の空の端だけは虹色に染まっていた。 駅は多少距離があったので、私達は曲目について語り合いながら歩いた。 前を歩くかがみとつかさから、一メートル程幅を開け、みゆきさんと私が並んで歩く。 私は適当に話に相槌を打ちながら、物思いに耽った。 歌い終わったばかりの時こそ何も残っていなかったが、こうして夜風に当たって頭を冷やしていくと、私の心は降りそうで降らない黒い雲に覆われた。 カラオケボックスの中での私を、心の中で散々罵倒した。 かがみが鈍感で無神経だというのではない。私の期待の仕方がそもそも根底から間違っていたのだ。 一体何をしていたんだ。どう考えたって、たかだか歌詞の一片に反応してくれるわけないじゃないか。 仮に反応してもらえたところで喜んでもくれると思ったか。なんて下らない、馬鹿馬鹿しい。 それとも、ああして片想いの曲を歌って、自分を慰めていた積もりだったのだろうか。 片想いの孤独をみんなに伝えて、周囲からも慰めてもらおうという算段だったのだろうか。そうだとしたら、あまりに情けないことだ。 いつのことだったか、かがみを、寂しさに耐えかねて死んでしまうウサギに喩えたが、ウサギは私自身なのではないだろうか。 人を一方的にウサギと決めつけて下に見ることで、自分は「ちっとも寂しくなんかないよ」と仮想していたのだろうか。 かがみだって私の言動の救いようの無さに相当呆れただろうな。 いやかがみは優しいからそこまでは考えてないでしょ、いやいやそうやってすぐかがみの優しさに頼ろうとするから何かと調子に乗るんだ私は、…。 負の無限ループに入った気がしたので、それ以上考えるのはそこで止めた。 みゆきさんが途中で別れた。何でみゆきさんが駅まで一緒に行かなかったのかは覚えていない。 私は、並んで歩くかがみとつかさの後ろを、さっきよりもう少し距離をとって付いていく。 二人が何の話題で盛り上がっているのかは分からなかったが、楽しげに笑い合っていたのだけははっきりと覚えている。 歩き出した時は西だけ虹色であった空も、その時にはすっかり深い青になっていた。冷気が、潮の満ちるように足元から迫ってきた。 そして私は、みゆきさんと別れた際に一時中断していた罵倒を再開した。 『切ない片想い、あなたは気付かない』の返答が、『ふざけて歌ってるんじゃないわよね~』でございますかねかがみ様、それは酷でございますよ。 独り相撲を繰り広げていた滑稽な私。そうだ私は道化だったんだ。いや、誰一人として見ていなかったんだからピエロですらない。ただの変人だ。 そんなことを考えていたら、今度は、悲しみが腹の底からもの凄い速さで込み上げてきて、喉から溢れ出そうになった。 溢れ出る一歩手前で飲み込んだ。しかし、すぐに戻ってきて、私に吐き出されるギリギリの所で溜まった。 だが、絶対に吐き出さなかった。吐き出せば「かがみの優しさに頼ろうとする」奴になってしまうからだ。 きっとピエロだって、人を笑わせるだけの自分の姿を哀れんで涙することがあるんじゃないのかな。 でも泣いたら顔の真っ白のメイクが落ちて無残な姿になり果ててしまう。気色悪くて誰も相手にしてくれない。 だから、またピエロに戻ってゆく。他人を笑わせている間は自分が哀れだなんて考えないでいられる。いつまでも自転車操業を続けるだけだ。 またこのような事を考えて、私はかがみの優しさに頼ろうとしてるんだな。悲しみたがり屋なんて図々しい。 自嘲、後悔、その他諸々。結局最後に残ったのは悲しみだった。他の感情は行きつ戻りつしていたが、この感情だけは真実であると知るに至った。 こうして感情の淘汰が完了したことで、独裁者となった悲しみだけが私を圧倒的な力で支配した。全身の内臓が圧殺されそうになった。真っ先に肺が白旗を振り、心臓も胃も陥落寸前。 もう全ては時間の問題だ、あとほんの少しで涙に溺れてしまう。 ああ、私にはもう耐えきれないよ、ごめんなさいかがみ、私は大好きでだいすきでたまらないあなたの優しさに何度もすがってしまう。 いくら謝っても謝り切れません。本当にごめんなさい。 声が出そうになった。溜めきれなくなった涙がこぼれかけた。 思わず両手を口に当てた。 ゆれたい・四へ コメントフォーム 名前 コメント (/ _ ; )b -- 名無しさん (2023-07-27 07 53 13)